「ねぇ、あの橋って本当に心霊スポットなのかな?」友達のリョウが、薄暗い道を歩きながら不安そうに口にした。彼の言葉に、俺は思わず緊張が走った。俺たちが向かうのは、町外れにある古びた橋。地元では有名な心霊スポットで、夜になると不気味な声が聞こえるとか、何者かに引きずり込まれるとか、噂が絶えない場所だ。
「大丈夫だって。幽霊なんているわけないだろ?」俺はリョウを安心させるように笑いかけたが、その笑顔はどこかぎこちない。
周りは静まり返っていて、風の音すら聞こえない。ただ、俺たちの足音だけが「コツコツ、コツコツ、コツコツ」と響く。まるで、誰かに見られているような気がして、背筋がゾクッとする。
橋に近づくにつれて、周囲の暗さが深まっていく。街灯の明かりは遠くに消え、ただ月明かりだけが道を照らしていた。その光は不気味に揺れ、影が生きているかのように俺たちの後ろを追いかける。俺は心臓が早鐘のように打ち鳴るのを感じた。
「ほんとに来ちゃったね…」リョウが呟く。彼の声は小さく、震えている。「これ、やっぱりやめようか…」
「まだ何も起きてないじゃん。ちょっと橋の上で写真撮って帰ろうよ。」俺は無理に明るい声を出し、彼を促した。だが、内心では「何も起きないでほしい」と願っていた。
橋の上に立つと、周囲はさらに静まり返り、異様な緊張感が漂っていた。風が冷たく吹き抜け、俺の髪を揺らす。リョウは後ろに下がり、足元の石を見つめていた。彼の表情には恐怖が浮かび上がっていた。
「ほら、見てみて。」俺はカメラを取り出し、橋の端に立つ。リョウもそれに続くように近づく。レンズを覗き込むと、目の前には古びた手すりと、下に流れる暗い川が見える。
「…なんか、変な感じがする。」リョウが声をひそめた瞬間、耳元で「ザザザ…」と不気味な音が響いた。
「な、何今の音?」俺は驚いて振り返った。だが、周囲にはただの静寂が広がるだけだった。リョウは俺の目を見ると、恐怖で白くなった顔をさらに青ざめさせていた。
「やっぱり、帰ろうよ…」リョウが言ったその瞬間、橋の下から「コツコツ、コツコツ、コツコツ」と音が聞こえた。まるで誰かがこちらに向かって歩いてくるような、重い足音だった。
「誰かいるのか?」俺は恐る恐る声を出すが、返事はない。音は徐々に近づいてきている。心臓がドクドクと高鳴り、手が震え始めた。
「おい、見てみろ!」リョウが指を差す先には、薄暗い橋の下に何かが見えた。人影のようなものが、ぼんやりとした形で浮かび上がっていた。
「まさか…幽霊?」俺は恐怖に駆られ、カメラを持つ手が震えた。「行こう、早く!」
リョウは俺の言葉を無視して、その人影をじっと見つめている。彼の表情は驚愕に満ち、目が恐怖で見開かれていた。俺はそのまま後ろに下がり、リョウを引き寄せるようにした。
「行こう、リョウ!」俺の声が響くが、彼はその場から動けない。人影がゆっくりとこちらを振り向く。「ヒュッ…」と冷たい風が吹き抜け、俺たちの心を凍らせた。
「コツコツ、コツコツ、コツコツ…」音がさらに大きくなり、俺たちの背後から迫ってくる。振り返ると、そこには誰もいない。ただ、冷たい風だけが俺たちを包み込む。
「おい、早く逃げよう!」俺はリョウの腕を掴んで引っ張ろうとしたが、彼の視線はその人影に釘付けだった。「リョウ、頼む、行こう!」
その瞬間、人影が不気味に笑った。「遊びに来たのかい?」その声は低く、どこか耳に残る不快な響きがあった。
「うわぁぁぁぁ!」リョウが悲鳴を上げ、俺はその声に驚いて振り返る。すると、彼の目の前には、まさに幽霊のような存在が立っていた。薄暗い服をまとい、顔はぼやけていて、ただその目だけが異様に光っていた。
俺は恐怖に駆られ、リョウの手を振り払って逃げ出そうとしたが、足がもつれて転びそうになった。その瞬間、耳元で「サラサラ…」と耳障りな音が聞こえた。何かが俺の首に触れる感覚があり、身動きが取れなくなる。
「助けて!リョウ!」俺は叫ぶが、リョウはその場に立ち尽くしている。何が起こっているのか理解できないまま、恐怖が全身を包み込む。
そして、橋の下からの「コツコツ、コツコツ、コツコツ」という音が止まった。その瞬間、冷たい何かが俺の背後に迫り、視界が暗くなっていく。俺は恐怖に打ちひしがれ、意識が遠のくのを感じた。
目を覚ますと、そこは橋の上だった。だが、周りにはリョウの姿はなく、ただ風の音が静かに吹き抜けるだけだった。俺は立ち上がり、周囲を見渡すが、彼の姿は見つからない。
「リョウ、おい、どこにいるんだ!」叫ぶが、返事は返ってこない。ただ、遠くから聞こえる「コツコツ、コツコツ…」という音だけが、俺の心をさらに不安にさせた。
恐怖が心を締め付ける中、俺はその場から逃げ出した。しかし、心の中に残るのは、リョウの笑顔と、あの薄暗い影のことだった。果たして、彼は本当に無事なのか。それとも、あの橋に何かが取り付いているのか。
そして、背後から再び「コツコツ、コツコツ…」と音が聞こえた。俺は振り返ることができなかった。恐怖が心を掴み、逃げることすら許されない。暗闇の中に、何かが潜んでいるようで、俺はただ逃げ続けるしかなかった。
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